フィギュアスケート

『氷上の哲学者』町田樹氏がついに平昌五輪解説者として降臨

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「氷上の哲学者」として独特の言葉の表現力でフィギュアスケート・ファンの人気を集めた町田樹(たつき)氏が、ついに地上波テレビにフィギュアスケート競技の解説者として降臨した。

町田氏は、2月12日のテレビ東京系の20時からの「平昌オリンピック」特番のフィギュアスケートのコーナーに、解説者として登場した。

2014年ソチ五輪フィギュアスケート団体および個人で5位だった町田氏は、その年の世界選手権の銀メダリストでもあった。翌シーズンの全日本選手権終了直後に突然引退して、町田ロスになったことが今なお記憶に新しい。

筆者も町田ロスに苛まれた一人だった。最近町田氏がBSの番組でアイスショーのうんちくたっぷりの超面白い解説をしていたという事実を後で知って、本当に残念だったのが記憶に新しい。この時の大反響が、ついに町田氏がついに地上波でのフィギュアスケート競技の解説に呼ばれるきっかけになったとみられる。

ちなみに、筆者の勝手な推測では、これまで町田氏が地上波テレビでフィギュアスケートの解説に呼ばれなかった理由は2つあったと思っている。

第一に、町田氏は喋りたいことがありすぎて話が長くなるから、尺(時間)オーバーになる可能性が高く、生放送の番組スタッフが気が気でなくなる問題があった。しかし、確かに町田氏の話は長いものの、その周到すぎる準備と話の内容やうんちくの深さ・面白さは、時間をかけて拝聴する価値が十分にある。

第二に、町田氏はイケメンながら、長年肌荒れがひどく顔のニキビが慢性化していて(ファンはずっと心配していた)、テレビ的にアップの画が映しづらいかもと思われていたフシがあった。しかし、今回のテレビ東京のメーク担当者は、町田氏の肌が綺麗に見える絶妙のメークを施し、問題を解決した。

番組で町田氏は、現在早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程在学中と紹介された。町田氏は今も自分で振付をしてアイスショーで演技を披露しているが、普段は現役の博士課程の大学院生だ。

五輪の団体・個人の両方を経験、現役選手と旧知の仲だからこそできる解説

町田氏の話は、まさに「氷上の哲学者」まっちーのファンのみならず、多くのフィギュアスケート・ファンの期待を裏切らない、さすがの内容だった。

町田氏は、オリンピックの団体戦と個人戦の両方の経験者だ。しかも、羽生結弦選手をはじめとする平昌五輪出場選手たちと競技会で共に戦い、遠征で相部屋になり、アイスショーで一緒にステージを盛り上げてきた仲間でもある。

こうした経験と出場選手たちとの絆、さらに独特の語彙力を持つ町田氏ならではの、リアリティー・説得力や深みのある解説と、出場選手たちへの友情溢れるエールは、実に素晴らしかった。

以下は町田氏の主な発言だ。町田氏は登場して初めに、「今日は前回のソチ五輪で団体戦と個人戦の両方を一足先に経験させて頂いた者としてお話しができたらと思います」と述べた。

フィギュアスケートの団体戦の日本チームについて、町田氏は「とにかく競技が早朝から始まりますので、タイムマネジメントが大変だな、という印象ですね。ですけれども、団体戦に出場した日本人選手のみなさん、全員大健闘したと思っています」と述べた。仲間への温かい言葉に聞こえた。

羽生選手の公式練習解説-右足負荷のジャンプと持久力に注目

韓国の仁川国際空港に到着した羽生結弦選手のVTRを見て、町田氏は質問に答える形で、以下のコメントをした。

「少し痩せた印象ですね。トレーニングで体を絞ったのかなと。あくまで推測です」「トロントからの長時間フライトの影響もあってか少し疲れも滲んでいる感があるんですけれど、思ったよりも明るい表情をしているかなとは思います」「(練習できなかった期間から判断して)なかなか大きな怪我だったのかなと思います」

次に、届いたばかりの羽生選手の現地で公式練習の超速報映像を見ながら、町田氏は以下の興味深いコメントをした。いずれも、なるほど、と納得のコメントだった。

「現時点で痛みがなければ、ジャンプやスピンといった技術面は直ぐに戻って来るはずです。問題は、プログラムをまとめ上げるための持久力が、どれほど戻って来ているのかということだと思うんですね」 ちなみに、先週羽生選手のコーチのブライアン・オーサー氏も、スタミナがカギと示唆していた。

練習リンクで滑走している羽生選手の表情について、町田氏は「いつも通りの表情だと思います」と述べた。練習で確かめたいことは何かについて問われ、町田氏は「やはり氷の感触でしょうね」と答え、解説した。

「今回の平昌五輪では、この建物の上層部が本番リンク。地下にこの練習リンクがあるということで、あんまり氷の質は上下で、つまり本番リンクと練習リンクで変わらないんじゃないかと推測しているんですね。ですから、氷の感触をつかめれば、上手く本番につなげられるとは思っています」 町田氏はリンクについてちゃんと調べていた。

「本人もインタビューで答えていたように、連覇を強く意識しているでしょうから、その辺の自分の目標とかも合わせて、どういうふうに練習を組み立てて行ったらいいかに集中しているとは思います」

「昨日トロントから平昌入りをしましたので、その辺の疲れもありますでしょうから、上手く疲れを抜きつつ、氷の感触をつかむ。流れだけを確認するというような練習でしょうかね」

リンクで羽生選手がさかんに指でイメージを描いて動作確認をしているように見えることについて、町田氏は解説した。

「彼はよくイメージトレーニングをするんですけれども、足の裏から得た氷の感触と自分の脳内で自分が動いている、たとえば今だったらシングルジャンプしましたけど、4回転ループをやっている自分っていうのを想像していると思うんです。足の裏から得た情報と脳内のイメージと統合して、イメージ練習をするという形なんでしょうかね」

「二連覇というものが上手くモチベーションにつながればいいんですけど、重圧につながってしまった場合にどう働くか分からないです。ただし、昨年平昌での四大陸選手権を経験したということで、会場の中の構造だとか氷の感触というのをある程度そこでつかめたでしょうから、その経験は今回の平昌五輪に上手くプラスに働くんじゃないかなと推測します」

これから羽生選手は曲掛け練習をすると思うかと問われ、町田氏は「分からないですね。ただ、オリンピックの練習というのは、各セッション、誰がどの順番に音楽をかけるか厳密にもう決まっているので。選手やコーチ、スタッフ陣営全員それが分かった状態で練習に臨みますから、それぞれの計画があるんだと思いますね」と話した。

羽生選手の足への影響について、町田氏が「一切分からないですね」と述べていると、羽生選手がトリプルアクセルを跳んだ。そのジャンプについて、町田氏は印象と解説を述べた。

「少し重たい感じも見受けられましたけれども、トリプルアクセルができるようなコンディションまで上がってきているっていうことは、確実なようですね」

「ただし、トリプルアクセルというのは、左足で踏み切りますので。たとえば、ルッツジャンプやフリップジャンプは、右足で強くトウをつきますから、その辺のジャンプで痛みが出るのか出ないのかっていうところは、やっぱりトリプルアクセルからだけでは判断できないですね」

羽生選手は曲かけ練習どころか他のジャンプの練習もせずに、早々と練習を切り上げてしまった。これについて、町田氏は「大事をとってか、ここで練習を引き揚げましたけれど。これも本人たちの計画なんでしょう」と述べた。さらに解説もした。

「オリンピックっていうのは、本番までにどれだけ何回練習があるのか、何分間練習があるのか、そのセッションで自分が何番目に音楽がかけられるのかっていうことが、全て厳密に決まっています」

「ですから、羽生選手のみならず、出場する選手全員がですね、自分の本番に合わせて、何回練習があって、そのセッションで自分がどこで音楽がかかるのかっていうことを、全て把握していますから、選手、コーチ、スタッフが全員で綿密な計画を立てていると思うんですよね」

「つまり、本番から逆算して、どういうふうに調整すれば、一回一回のセッションを過ごせば、本番にベストコンディションで臨めるのかっていうことも踏まえて、調整して行くんだと思います」

羽生選手が少ない日数でどう仕上げていくかについて、町田氏は「この練習からだけでは、正直何も判断はできません。明日からの練習で得られた情報からでしか、判断できないと思っています」と述べた。

団体戦でのネイサン・チェン選手の4回転失敗は早朝競技のせい

団体戦のショート・プログラムで、アメリカの大物選手のネイサン・チェン選手が4回転ジャンプで転倒するなどミスが目立ったことについて、町田氏は持論を述べた。

「今シーズン、ショート・プログラムで彼は一度もミスがなかっただけに、驚きましたよね。この団体戦っていうのは、今回はアメリカのテレビ放送のプライムタイムに合わせて、競技を早朝から始めるという設定をされたと聞きますけれども、元選手の立場から発言させてもらえば、今回の競技スケジュールは、到底受け入れられるものではないですね」

この本音発言は、たとえば日本スケート連盟の副会長という要職にある荒川静香氏では、絶対口にできない類のものだ。

宇野昌磨選手のタフさについて

団体戦のショートで素晴らしい演技をした宇野昌磨選手について、町田氏は解説した。

「平常心で上手く体をコントロールしていたかな、という印象ですね。今回競技スケジュールが早朝からなので、6時半からこの時の男子ショートは練習があったんですよね。普通でしたら何も練習ができない状態なんですけども。そのような大変なコンディションの中でも宇野選手は冷静に自分を保ったかなという印象を受けました」

「他の選手が苦戦を強いられている中で、ミスはフリップジャンプのオーバーステップだけなので、ミスを最小限に食い止めて、あと上手くスピン、ステップも含めて、プログラムをまとめ上げたというのは評価できるかな、と思います」

また、町田氏は個人戦に向けて宇野選手を激励した。

「団体戦でかかった体への負荷・疲労をいかに癒して個人戦に臨むかということがカギですので、体のケアをやりながら、個人戦に備えて欲しいですね」「緊張で自分の体のコントロールを失うみたいなシーンは、これまであまり見られなかったので、そういう意味では精神面でタフなんでしょう」

宮原知子選手の冒頭の連続ジャンプの回転不足

関西大学の後輩の宮原知子選手の団体戦でのジャンプの回転不足について、町田氏は丁寧に解説するとともに、個人戦に向けて温かく激励した。

「私は昨日の女子ショート・プログラムすべての選手のジャンプのスロー映像を全部慎重に比較検討した上で言うんですけれども、宮原選手のジャンプ、何も遜色はありません。自分の磨いて来た技術に自信を持って個人戦に突入していって欲しいと思います」

「宮原選手の強さというのは、プログラムを作品として仕上げる、まとめ上げる力だと思うんですね。ジャンプだけじゃなくて、スピン、ステップ、すべて総合力ですので。ジャンプも含めて、宮原選手には自分の技術を信じて、逞しく自信を持って、個人戦に臨んで行って欲しいと思います」

「宮原選手、本当に大きな怪我を乗り越えて、この舞台に立っています。怪我を乗り越えて五輪の切符をつかむ、という全日本選手権、昨年末行われましたけど。そこでは本当に滑る喜びだとか、このプログラムを演じる日本人女性としての強さみたいなのが、満ち溢れていたんですよね」

「ですから、全日本の時の気持ちっていうものをもう一度思い起こして、堂々と個人戦に臨んで行って欲しいと思います」 このコメントは、宮原選手に是非届いて欲しい。

日本チームのペアとアイスダンスの躍進を讃える

町田氏は、ペアの木原選手とアイスダンスのリード選手とは、ソチ五輪の団体戦を共に戦った仲だ。平昌五輪でのペアとアイスダンスの演技の映像を見ながら、彼らの躍進を強調し、激励するコメントをした。

「(ペアの)木原選手はよく須崎さんのことを見ていますね。木原選手は須崎選手の小さなミスをいち早く捉えて、須崎選手の動向を見ながらセカンドジャンプ、サードジャンプに入って。これはものすごいスキルだと思うんですね。木原選手の須崎選手に対する献身、それに答える須崎選手の頑張りが、非常に滲み出るいい演技だったと思います」

「『ロミオとジュリエット』は、清純なオーラを持つ須崎選手と、それをしっかりと支える木原選手にとてもマッチしたテーマだと思うんですよね。本当にいいプログラムだと思います。是非、個人戦でも作品を大事に滑って欲しいと思います」

「ペアとアイスダンス、カップル競技はですね、日本の場合はそれぞれ1組でショート・プログラム、フリー・スケーティングを全部を担ってますので、本当に体力的に厳しいんですね。ですから、団体戦以上に、みなさんにはカップル競技の2組を応援して欲しいと思います」

アイスダンスの村元・リード組のフリーのプログラムについて、町田氏は相当気に入っている模様で、熱心に解説した。

「村元選手が桜をイメージ、そして傍らにいるリード選手は風のイメージですね。村元選手の衣装が変形をしまして、満開の桜が立ち現れる。ここからの動作に注目して欲しいんですけれども、ステーショナリー・リフトと言います。本当にこのシーン、風に花びらが舞っているように見えませんか? このステーショナリー・リフトという技は、今シーズン世界で一番僕は好きなんです」

その村元・リード組が四大陸選手権の銅メダルを獲得したことについて、町田氏は「本当にすごいことですよ。アイスダンスとペアっていうのは、日本に練習環境がありませんからね。両者共にアメリカに渡って競技力を磨いている。本当に、ペアもアイスダンスも急成長しているカップルになりますので、是非注目して頂きたいと思います」と述べた。

坂本花織選手と田中刑事選手の健闘を称え、団体戦出場の体力的負担を訴える

町田氏は、団体戦のフリーに出場した坂本花織選手と田中刑事選手についても、先輩としての温かさが伝わってくるコメントをした。

坂本選手の演技について、町田氏は「冒頭のジャンプ、ぶれたんですけれども、その後平常心を保って最後までまとめ上げリカバリーしたっていうのは評価できますし」と称えた。

田中刑事選手について、町田氏は「田中選手も4回転惜しかったんですけど、トリクルアクセルまでの技を確実に決めるというところで、最後の砦だけは意地でも守るという心意気が見えたので、本当に高く評価したいと思います」と述べた。

さらに町田氏は、団体戦に出場する選手たちの体力的負担の問題を訴えた。

「団体戦、選手たちは本当に体に負荷がかかっています。団体戦に出場した選手は、体に疲労を抱えた状況で個人戦にこの後突入して行くんですよね。ですから、ここに、団体戦に出る人と出ない人の差が生まれてしまう」

「私は、団体戦と個人戦を逆にしたらいいんじゃないかと考えますね。そうすると、個人戦はみんな元気な状態で臨めますし、団体戦に出る人たちも同じ疲労度で臨めますので、イーブンな状態が作れるのかなと思うんですけど」

「団体戦に出場した選手は本当に大変な中頑張っているので、団体戦以上に、個人戦を応援して頂けたらと思います」

オリンピックという大舞台と平常心

最後に個人戦のポイントということで、町田氏はオリンピックならではの問題について述べた。

「みなさん120%調整して来てると思うんですよね。だから、いかに通常のいつも通りのパフォーマンスができるかだと思っています。オリンピックという舞台では、他の通常の大会ではかかりえないストレスや困難に、選手は常にさらされています」

「ですから、こういったストレスをいかにマネジメントしていつも通りの平常心でいられるのか、いつも通りのパフォーマンスが発揮できるのかということが、個人戦のカギだと思っています」

なお、町田樹氏は2月25日(日)のフィギュアスケートのエキシビション後のテレビ東京のフィギュアスケートのハイライトで、ゲスト解説者として出演する予定だ。

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